ウクライナ情勢を「チャンスに」 ルールメーカー望む中国の思考回路
ウクライナ情勢を「チャンスに」 ルールメーカー望む中国の思考回路
国際関係の民主化
欧米諸国がルールメーカーである国際社会に対して、中国は違和感を抱いてきました。中国はあとから国際社会の中に参入した国家だからプレーヤーに過ぎず、ルールメーカーにはなれない。その秩序が続くのは中国としては望ましくないわけです。
ではどうするのかということを中国は常に考えていて、「国際関係の民主化」を唱えています。欧米諸国以外の声、発展途上国の声を代表するということで活用する枠組みが、中ロとインド、ブラジル、南アフリカでつくるBRICS(ブリックス)であり、中ロが主導する上海協力機構であり、先進国とブリックスの国々を含むG20です。
そうした新しい制度を作り活発化させることを通じて、既存の秩序を少しずつ変えていくという戦略が見て取れます。既存の非民主的な国際社会に、多数を占める声を反映するために、中国が代表して行動していると主張しているのです。
これからのロシアがどうなるかは見通せませんが、戦争と経済制裁によってロシアの国力は大きくそがれていくでしょう。そうなるとロシアは中国を必要とする。G20、ブリックス、上海協力機構といった国際協力のプラットフォームの中での中国の影響力の拡大が想定されます。
その上で、ウクライナ戦争後には、中国が率いるプラットフォームの影響力がより高まっている状態にしたい。今はそのチャンスになり得る、と考えているでしょう。
自国の生存
中国にとって「自国の生存」というのは重要なキーワードです。
最近の興味深い例を挙げます。3月18日にあった習氏とバイデン米大統領のテレビ電話協議について、新華社通信は習氏の言葉より先に、まずバイデン氏の発言を伝えました。
「米国は中国との『新冷戦』は求めず、中国の体制変更を求めず、同盟関係の強化による中国への反対を求めず、『台湾独立』を支持せず、中国と衝突する意思はない」
中国側が強調したバイデン氏の発言によって、中国が最も気にかけていることが何かがわかります。中国にとって大切なことは、体制をいかに維持するのかであり、欧米諸国が体制を転覆しないという言質を取ることなのです。
制度性話語権
中国は「自国の安全と発展にとってよりよい国際秩序を作る」ために、次のように考えているでしょう。
①欧米諸国との摩擦を避け、自国の経済発展の時間を稼ぎたい。
それと同時に
②「制度性話語権」の強化を図り、国際秩序を支える制度を作り出す役割を担う。
「制度性話語権」とは、習指導部が2016年に策定した第13次5カ年計画(16~20年)に書き込まれた言葉で、「自国の影響力を高める国際制度上の権力」を意味します。
かつての中国は、力がなかったから国際秩序に適応するしか術(すべ)がなかった。しかし中国は変わった。国力が高まった中国は、自国の安全と発展にとってよりよい国際秩序を作り出す必要があり、そうすべきである――。これが制度性話語権という概念が提起された背景です。
中国の政治指導者は、自らを取りまく国際環境は、つねに「不安全」だと捉えていて、さまざまな機会を利用して不安全な国際秩序を改善したいという考えがあります。
「制度性話語権」の強化を通じて、グローバル経済秩序を形作っている様々な制度の中に中国の主張を埋め込んでいって、中国にとってよりよい国際秩序を作っていくという考え方が重視されています。